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広島地方裁判所 昭和46年(行ク)14号 決定 1971年8月05日

申立人 中嶋久矩

被申立人 広島県公安委員会

訴訟代理人 片山邦宏 外八名

主文

申立人の昭和四六年七月二八日付集団示威運動許可申請に対し、被申立人が同年八月三日付でなした許可に付された条件のうち

「公共の安全と秩序を保持するため、申請にかかる集団示威運動の進路のうち(2) 「女学院前交差点からグランドホテル前、同西側、同南側をへて女学院前交差点に至る進路」を「女学院前交差点を左折し、白島線電車通りを南進する進路」と変更する」旨の部分につきその効力を停止する。

申立人のその余の申立を却下する。

申立費用は全部被申立人の負担とする。

理由

一、申立の趣旨および理由

別紙(一)に記載のとおり

二、被申立人の意見

別紙(二)に記載のとおり

三、当裁判所の判断

(一)  本件疎明によれば

申立人は、昭和四六年六月二六日、八月六日に反戦集会を実施することを中心的な目的として、一〇九団体により結成された「被爆二六周年八・六広島反戦集会全国統一実行委員会」(以下全国実行委と略す)の代表者であるところ、右団体主催により約三〇〇名が参加して昭和四六年八月五日午后六時三〇分より一〇時までの間佐藤首相来広に反対抗議し記念式典出席を許さないことをアツピールするための集団示威行進を、「広島百貨店南側緑地帯→栄橋ビル前→中央郵便局前→駅前大橋→上柳橋→広島女学院南側→グランドホテル前→同北側→同西側→同南側→白島線電車通→天満屋前→福屋前→紙屋前→白神社前→市役所前→鷹野橋→広大正門前」のコースで行うことを計画し、同年七月二八日「集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例」(以下県条例という)第四条、五条に基づき、被申立人に対し右許可を申請したところ、被申立人は同年八月三日右申請に対し、同条例第六条第二項にもとずき

公共の安全と秩序を保持するため、申請にかかる集団示威運動の進路のうち

(イ)  出発地から栄橋ビル前、広島中央郵便局前をへて駅前大橋北詰交差点に至る進路」を「出発地から緑地帯ぞいに東進し、駅前大橋北詰交差点に至る進路」に

(ロ)  「女学院前交差点からグランドホテル前、同西側、同南側をへて女学院前交差点に至る進路」を「女学院前交差点を左折し、白島線電車通りを、南進する進路」に各変更したほか、その他若干の許可条件を付して、これを許可する旨決定したことが認められる。

申立人はこのうち被申立人のなした右進路変更処分のみにつき不服を申立てているのであるが、右進路変更処分により申立人が回復困難な損害を避けるため緊急の必要があることは表現の自由の一類型としての集団示威行進の性質からして自ら明らかであると言うべきである。

(二)  ところで被申立人が本件集団示威運動の申請に対し前記の如く進路変更の処分をしたのは、昭和三六年広島県条例第一三号「集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例」第六条第二項にもとずくものであること前認定のとおりであるが、集団示威運動の実施場所の変更は「公共の安全と秩序に対して直接危険が及ぶおそれがあることが明らかであると認められるとき」に「必要な最小限度において」なされねばならないものであること、同条に定めるとおりであつて、その運用にあたつてはいやがうえにも慎重を期し、憲法の保障する表現の自由をみだりに抑圧することのないよう戒心しなければならないことはいまさらいうまでもない(申立人は右条例の規定自体が憲法に違反して無効であると主張するが、同種の条例の規定について違憲でないとの最高裁の判例もあることではあり、本件の如き仮の判断を示す執行停止申請事件においてこの点の判断に立ちいることは相当でないと思料するので、いちおう合憲のものと推定し、あえてこの点の判断には立ちいらない)。

さて、本件疎明資料によつて案ずるに、被申立人のなした前記進路変更処分のうち「出発地から栄橋ビル前、広島中央郵便局前をへて駅前大橋北詰交差点に至る進路」を「出発地から緑地帯ぞいに東進し、駅前大橋北詰交差点に至る進路」に変更した分については、夕方のラツシユ時広島駅前で集団示威行進をなすことは、一般通行人、自動車等の交通に多大の影響のあることが予想されるばかりでなく、翌八月六日の平和記念式典等に参集する多数の人々の来広のほか佐藤総理も午後六時五十一分広島駅に到着することが予定されているため、報道機関その他通常よりも多人数の人出が考えられ、かかる場所でそれに近接した時間、佐藤首相の来広に抗議することを標楴する申立人らの集団運動がなされるときは、混乱を招き、更に佐藤首相の来広をめぐりこれに反対するものとかかる反対行動に反感をもつものとの間の拮抗等不測の事態の生ずる恐れがないとはいえないから、これらの事情を総合すると、午後六時半頃広島駅前を行進することを避ける趣旨に出た右進路の変更は公共の安全と秩序に対する直接の危険を避けるため必要最小限の措置としてやむを得ないものと判断される。

これに対し、「女学院前交差点からグランドホール前、同西側、同南側をへて女学院前交差点に至る進路」を「女学院前交差点を左折し、白島線電車通りを南進する進路」と変更する処分については、右変更にかかる場所は前記駅前にくらべればさして一般の交通ひんぱんな場所でもなく、本件デモの参加予定人数が約三百名程度であり、同夜グランドホテルに佐藤首相が宿泊する予定になつているとはいえ、そのために同日は特に不測の事態の発生にそなえ警備体制も強化されているであろうことを考えると、右グランドホテル周辺で申請人らの集団示威行進がなされたからといつて、直ちに被申立人のいうような非常事態が発生するおそれが高いとはいえないから(かかる疎明はない)右部分のデモを許可しても「公共の安全と秩序に対して直接危険が及ぶおそれがある」とは認めがたい。

したがつて、申立人が右部分の効力の執行を停止することを求めることは本案について理由がないとはいえず、右処分の効力を停止してもその結果公共の福祉に重大な影響を及ぼすような事情があるとは認めがたい。

四、以上のとおりであるから、被申立人が申立人の集団示威運動の許可申請に対し進路変更の条件を付して許可したことにつき、右条件の処分の効力の停止を求める本件申立は主文の範囲で正当として認容するが、その余の申立は失当として却下することとする。

よつて申立費用につき民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 海老澤美廣 藤本清 野田武明)

別紙(一)(二)<省略>

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